パンダ×テロリスト=ケーキ


前半はこちら

 車が、発進する。ゆっくり、ゆったり。
「あんまり早いと危ないんですよ。急ブレーキかけたりして、借り物を傷つけたりなんかしてしまったら大変だから」
 納得しながら、虎徹とバーナビーもバイクに乗って。
「……さて、僕らも」
「ん」
 キースは先に空から見回っている。パオリンはパンダと一緒だ。
「何事もありませんよーにっ」と虎徹が言うのを聞いて、バーナビーはため息をつく。
「おじさんがそんなこと言うから何かが起こってしまうんですよ──」
 そしてその言葉は、当たってしまうのだ。


 テロリストらしき男たちが、道を塞いだ。
「パンダとガキを渡せ!! さもなくば、撃つ──」

「……どうすっかな」
 虎徹がやや困ったように呟くが、バーナビーは冷静だ。
「車を停めて、相手が油断したところを空から狙うのが一番でしょうね」
「ん、そだな……おいドラゴンキッド、スカイハイ、そっちはどうだ」
「私は構わない」
「ボクも大丈夫。何だったら一回外に出てもいいよ」
 そんな訳で、作戦決行。スカイハイは敵からぎりぎり見えるか見えないかの位置で待機している。
「車、停めるよ」
「ああ」
 車がゆっくりスピードを落とす。完全に停車したところで、テロリストがまた言った。
「まず、ガキを出すんだ。手を頭に当てて、降りろ」
 言われた通りに動くパオリン。キースが、遠くから敵を狙う。
「ゆっくりこっちに来い。ゆっくりだぞ」
「……」
「!! ジャック、伏せろ!!」
 男が伏せた瞬間、キースの放った空気の塊が、地面にぶつかった。思わずパオリンが舌打ちする。
「ヒーローかァ……なめられたもんだな、おいッ!!」
 男の指先から、水が走る。そのまま、空を飛ぶキースにぶつかって。
「うわぁッ!!」
「……!! バニー!!」
「わかってますよ!!」
 気を失って墜落していくキースを、バーナビーが助けに向かう。その間に、虎徹はパオリンを庇いに。
「ヒーロー、ねぇ……ふーん」
「……お前らの目的は何なんだ」虎徹が訊く。
「俺らか? 俺らは、……んー、強いていうならこの街に裏切られた奴ら? みたいな?」
 男が首を傾ぐ。虎徹は、ため息を吐いた。
「ああそうなんだ。じゃ、とっととご退散願えますかね……っと!!」
 虎徹が脇に避けた瞬間、パオリンが電撃を放つ。敵は水、こちらは電撃。勝負は目に見えている。
「ハアッ!!」
 相手が感電したのを見てから、虎徹がワイヤーで縛る。敵は全部で五人──のはずだった。
「う、うわあああああ!!」
 その悲鳴の方を振り向くと、運転手が腰を抜かしていて。もう一人、いたのだ。
「兄貴たちを放せ!! さもないと、さもないと……この熊を殺す!!」
 銃を檻の中のパンダに向け、彼は叫ぶ。どうしようもなくなって、虎徹はワイヤーを解こうとした。その瞬間。
「その必要はありませんよ、タイガーさん──」
「く、熊が、しゃ、喋った!? うわあああああああああ……」
 ばたん、と失神してしまう彼。青い光が見えて、寄ってみると。
「一応、これも作戦だったのですが……どうですかね、似てました?」
 折紙サイクロン──イワンが笑う。もちろん、顔は隠していたが。
「折紙だったのか……気付かなかった……」と、虎徹。
 笑ってから、イワンはパオリンの頭をそっと撫でた。
「ごめん、騙して。びっくりしたかな」
「あ、いや……えっと、似てたよ、すごく」
 パオリンも笑って、それから、カメラの方に振り向いた。
「今日一番犯人確保に協力してくれた二人と、スカイハイに、ポイントをあげて下さい。ボクは、何もしてないから──」
 そう言って、頭を下げた。


 その後、病院にて。
「それにしても──珍しいな、お前が攻撃を食らうなんて」
「そうかな……うん、そうだな。油断してた、すまなかったね、バーナビーくん」
「僕はお陰さまでポイント貰ったから構いませんよ──それより、傷は大丈夫ですか」
「ああ、うん。これくらい、何ともないさ」
 バーナビーの皮肉──と言っても虎徹に向けるものより随分軽いが──をさらりとかわして、キースは笑う。
「そういえば、ドラゴンキッドと折紙サイクロンはどこに?」
「お見舞い買うってさっき売店に走って行きましたよ。ところで僕の携帯、売店って打つとkioskが出るんですが」
「知らねーよ。……見舞い、ねぇ。何買いにいったのやら」
 ばたん、とドアが開く。彼女がケーキの箱を持っていて、後ろには疲れた様子のイワンが。
「売店になにもなかったからケーキ屋さん行ってきた! これ、食べよ!」
「あ、あの……ドラゴンキッドが走ったからぐちゃぐちゃかも……」
「ボクは昔ラーメン屋で働いたことがあるんだ、物を安定させたまま走るのは十八番だよ!」
「いや思いっきり手を振ってたよね……」
「……とにかく! ケーキ! 五人分あるからっ」
 箱を開けると、少し崩れてはいたものの、整った形のケーキが入っていて。
 バーナビーが看護師に頼み、皿とフォークを持ってきてもらう。イケメンは得が多いなと虎徹が皮肉ると、彼は、大きくため息を吐いた。
「……さ、食べましょう」
 一番最年少のパオリンがまず、自分の食べたいものを先にとる。次に、甘党のバーナビー。そして。
「おいスカイハイ、どれ食いたい?」
「私はこの、チョコレートが気になるかなチョコレートが」
「奇遇ですね……実は僕もです」
「……俺もだ」
 そしてジャンケン大会が始まる。勝者、折紙。
「じゃあ僕が頂きますね──」
 かっさらっていく。それを惜しそうに眺めながら、また、虎徹。
「さて、どちらがいいかな」
「私はどちらでもいいが……そうだな、このタルトを頂こうか」
「ん」
 今度は比較的丸く収まって、虎徹は最後に余った、ショートケーキを口にした。
「おー、なんだこれ美味いな」
「もっと味わって食べて下さいよ……これ、あの有名店のやつでしょう? どうやって……」
「前にロックバイソンの所属企業の関連企業、とか言って連れていってもらったことがあって。そのときに、そこのパティシエさんと知り合いになったんだ」
「へえ」
「ん? バニーちゃん、もっと食べたいの? 俺の食べる?」
「結構です、と言いたいところですが……頂きます」
 そう言って、クリームのたっぷりついたスポンジをさらっていく。苺を残したのは、せめてもの良心か。
「あ、そのメロン食べたいなあ。いい?」キースのタルトを指差し、パオリンが笑う。断ることができず、キースはパオリンにメロンを食べさせてやった。
「ん、おいしい」


「そういや、パンダは?」
「もう一台の車で護送しました。ファイヤーエンブレムさんとロックバイソンさん、ブルーローズさんが──」
「あ、メール来てら」
 アントニオから、ブルーローズとパンダのツーショット。お返しに、とパオリンとバーナビー、ケーキの写真を送る。
『珍しい組み合わせねぇ』
『そう? ってかなんでファイヤーエンブレムが』
『細かいこと気にしたら負けよん』
 再び、写真を見る。幸せそうな二人に、そっと笑って、画面を閉じた──。


2011.07.14
(そんな話。兎と龍はくいしんぼ。もっと空折龍が広まるように願いをこめて書きました。時間軸は9話後くらいかな…。13話後の空白の10ヶ月でもいいかも。でもバニーちゃんがおじさんって言ってるからどうだろ。ところで携帯のエディタがこれを書いてる途中で何回も落ちました。なんぞ)
2011.08.22 ちょっと修正