愛されたい
最初あんなに嫌いだった彼のことを、今はとても好きになっている。
「……なんででしょうね」
隣で街を眺めながらハンバーガーを食べている彼。風が吹いているせいで、その声は届かない。
「なにか言ったか、バニー」
首を振ると、そっか、とまた視線を街に戻すのだ。──素っ気なく。
「おじさん、僕にもそれくださいよ」
「一個しか買ってこなかったからやだ」
「一口だけでいいですから」
「……しょうがねえなあ、一口だけだぞ」
そう言って差し出してくるので、思い切りかぶり付いてやった。あっ、と悲しそうな声が聞こえてきたが、気にしない。
「おま、俺のピクルスも食べたろ! 返せよ!」
「あとでもう一個買ってきたらどうです」
虎徹が涙目になるのを見て、意地悪しすぎたか、と心の中でそっと反省する。
「……分かりましたよ、あとで買いに行きましょう。二つ買えば文句ないでしょう」
頷いて、虎徹は残ったハンバーガーを食べ尽くすと、階段の方を向いた。
「お前の奢りなんだよな」
「もちろん──」
そこでふと、彼の後ろ姿が目に止まる。思っていたよりもずっと広い背中に、バーナビーは息を吐いた。
──自分は、彼が好きなのだ。
「おい、バニー! 行くぞ!」
その声に、ハッと我に返る。そして、バーナビーは虎徹を追いかけた。
彼の相棒であることに、今は誇りを持てる。最初の頃の意地が、今はとてもつまらないものにすら、思えて。
しかしこれ以上を望むのは、強欲すぎるだろう。そう、きっと自分には高望みすぎること。
そう言い聞かせて、しかし、心の奥底では。
それでも、僕は彼に愛されたいのだ。
20110822
(14話未視聴時点で書いたものなので色々アレな気はしますが、このタイミングでうpしてみます。携帯サイトより再録)