マヨネーズ味の飴

 仕事中にも関わらず、彼はべらべらと喋り続けている。
「でさぁ、折紙が……」
 僕は耐えきれず、言った。
「いい加減黙って下さいよおじさん。仕事の邪魔です」
 するとあんまり悲しそうな顔をするので、近くにあった飴の袋を差し出す。ため息がこぼれた。
「……ほら、飴、あげますから……」
 にっこり笑う彼。飴を摘まんで。
「わーい飴ちゃんだー!」 バリバリと音を立て、噛み砕く。三つ目を噛み砕いたとき、僕は叫んでいた。
「もうやめて下さいよ!! なんで飴を噛むんですか、ガムじゃあるまいし!! そんなことしたら、あっという間に終わってしまうじゃないですかっ」
 おじさんは、僕の言葉が聞こえないふりをして、また一つ、噛み砕いた。


「ところでマヨネーズ味の飴ってないのかねぇ」
「ありませんよそんなの……需要ないでしょう」
 呆れた。どれだけマヨネーズが好きなんだ、彼は。
「そうか?需要はここにあるぞ?」
 と言って、自分を指差す。僕が言いたいのは、マヨネーズ愛好家がどれくらいいるのか、ってことで。
 ……あれ、そんなに少なくないんじゃないか?
「……飴ってどうやって作るんだろうか……」
「?」
 察しの悪い人。でも、そこがいい。
「もう、ちょっと待ってて下さいよっ」

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 それから数十分後。
「……はい、どうぞ」
 バニーちゃんが差し出したそれを、俺は口に入れた。広がるあの味。
「……ん……な、なんだこれは……さわやかに広がる酸味と絶妙な塩分…!これはまさしく……!!」
「ご希望のマヨネーズ味の飴です。……べっ別にあなたのために作った訳じゃないんだからっ」
 こんなところでデレを出さなくても──と言いたいけれど、これは美味い。商品化したら、世の中のマヨラーに馬鹿売れ確実だ。
「……バニーちゃん、ありがとな」
「だから僕はバニーちゃんじゃないって何度言ったら」
「まあそれはともかく、美味いよこれ」
 すると彼は、安心したように笑う。
「そうですか、よかった……」
 ふと、その手を見ると、絆創膏が何枚も貼られている。ため息。
「お前、無茶したろ。その傷」
「……これは違いますよ、別に、」
「さっきまでなかっただろ」
 指摘すると、彼は黙り込んでしまう。図星、だった。


「あー、お取り込み中のところ申し訳ないんだが……」
「何だよ」
「何ですか」
「……やっぱり何でもない……」

2011.07.24
(以前twitterにちょっとだけつぶやいた小ネタを書き直してみました。gdgdですね。ちなみに最後のは牛さんです)