その能力は、諸刃の

 二つ目の力を、この日ほど渇望し、憎んだことはない。

「虎徹さんは、僕を好きでいてくれますか?」
「当たり前だろ、パートナーなんだから」
「そうじゃなくて、恋愛感情として」
「ああ──それは、分からねえなぁ」
 悲しそうな表情のバーナビーに、俺は笑ってみせる。
「冗談。妻と娘の次に好きだよ、お前のこと」
 腹に鈍い痛みが走る。
「……もう一度だけ、好きっていって下さい」
「────愛してる、バーナビー」
 彼の目から、雫が溢れた。


「死んじゃだめですよ、虎徹さん……!!」
 能力はあと3分だけ使えないのだ。あと3分持てば助かるかもしれない。
「あー……もう、眠くなってきたわ……」
 口の中は、鉄の味。自分の血の味。
 その眠さが、あと3分もの時間を永遠に感じさせてくれるのだ。
「なあバニーちゃん。俺が死んだら、楓を頼むわ」
「いやだ、そんなの、いやだ……!! 貴方が死んだら僕はもう生きていけない」
「大丈夫だって。お前は俺を忘れて、新しい人生を歩くんだ」
 いろいろと麻痺してきた。これはもう、持たないなあと分かる。
「バニーちゃん、元気に頑張れよ」
「……っ、嫌だ!! 僕は、僕はあなたを死なせたりはしない!!」
 叫んだ彼の目が、青く白く光る。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 青い光が、散って。
「虎徹さんを、鏑木虎徹を死なせる訳にはいかないんだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 稲妻が、俺の身体に落ちる。
 そして、気付けば──。

「虎徹さん、っ」
「……ん」
 彼が涙を溢す。その体を抱き締めた。
「も、大丈夫だから」
「うん」
「お前に助けられた。ありがとう」
 バーナビーの第2の能力は回復なのだろう。俺の傷が、きれいさっぱりなくなっている。
「おじさん、虎徹さんを助けられて、僕は、」
 そのまま彼は倒れて、目を閉じる。ぬるりとした、感触。

 俺の手には、真っ赤な液体が────。


 例えば、俺が叫んだら彼は助かるというのだろうか?
 俺が、彼を助けられるというのか?
 ──まだ温もりの残る身体。
「バニー、ちゃん、バーナビー」
 叫んだ声は届かない。


2011.07.14
(まさかの死ネタです。わあい鬱になってきた…orz 第2の能力の扱いって結局どうなるんだろう、みたいな……死ネタである必要性はどこにもないです。皆無です)