病と涙
「おじさん、」
服の裾を引かれて振り向けば、そこには彼が。蒼白した顔で。
「な、なんだよ……。……どうした? バニー?」
「頭が……くらくらす……る……」
言い切れずに、倒れるバーナビー。その身体を慌てて支えながら、虎徹はそっと額に手を当てた。ものすごい熱だ。
「だ、大丈夫か? ……おい、バニー! バーナビー!」
「うるさい、です……っ……」
ぜえぜえと苦しそうな呼吸をするバーナビーを抱えて、虎徹は能力を発動させた。
「これはインフルエンザですね。一週間は仕事をしないようにして下さい。ああ、能力を発動するのも駄目ですからね」
ベッドの上で点滴に繋がれている彼を見ながら、医者は言う。虎徹はほっとため息をついた。
インフルエンザくらいなら、きっと死にはしないだろう。だが、病気で妻を喪っているせいか、虎徹は病気に対しては極端に神経質になりがちだった。
「……よかったな、バニー。たいしたことなくて」
ベッドの縁に腰掛け、今は落ち着いている彼の頭をそっと撫で、呟いた。そう、所詮は伝染病。致死には至らないのだ。
「……よかった、うんよかったよかった」
そう繰り返す。何度も、何度も。気付けば、目には涙が溜まっていて。
「おじさん」
顔を上げる。その拍子に、ぽろりと溜まっていたものが落ちた。
「そんなに頭を撫でられたら、病人でも飛び起きますよ。馬鹿ですか」
「……かわいくねえなあ」
「第一、そんなことで泣かないで下さいよ。大の大人が、みっともない。──僕はそんな簡単にいなくならない」
「わーってるよ、うるさい」
言いながら、涙を拭う
そうだ、彼はいなくならない。
「インフルエンザごときに負けるほどヤワじゃありませんからね。……ほら」
バーナビーは虎徹の手をそっと取り、優しく握った。
「僕はここにいます。決してあなたより先に死んだりはしない」
その言葉に、一瞬驚いたような顔をして、それから、彼は笑った。
「そうだよな、うん、そうだ」
そうして、その手を強く握り返した。
後日──ベッドの上でうんうん唸る彼を看病するバーナビーの姿があった。
「バニー、お前のせいだぞ……げほげほっ」
「責任転嫁ですか、よくないですよ。ほら、早く寝て下さい」
うつったか、うつされた、か。
どちらにせよ──。
2011.07.14
(それなりに、そこそこに仲良しな二人が書きたかった。バニーちゃんの皮肉はどんなに時間が経っても皮肉なままでいて欲しい。2クール目ツラァ……)