クレープを食べようか

 いつものように笑えなかったのは、照れていたからで。

「ねえ折紙、スカイハイ、お腹空いたよー、何か食べに行こうよ!」
「さっきも食べたでしょ……僕はやることがあるから、スカイハイさん、お願いできますか?」
 まるで保護者のような口調のイワン。キースは了承して、パオリンに訊いた。
「じゃあ、何を食べに行こうか?」
「んーと、そうだなあ……クレープ食べに行こ!!」


 クレープ屋の看板の前で、虎徹とバーナビーが何やら相談していて。
「んん、バニーちゃんは何食べる?」
「だから僕はバーナビーですって……そうですね、いちごチョコクリームか、チョコバナナもいいなあ……」
「俺はツナマヨだな断然」
「言うと思いました。じゃ、僕はいちごチョコクリームで、バナナトッピングにします」
「うわ、甘そう」
「どうせおじさんはマヨネーズ増量とか無茶言うんでしょう? コレステロール値上がりすぎてそのうち死にますよ、おじさん」
「お前は甘いもの食べすぎなんだよ、ったく。ヒーローが糖尿病とか笑えねーよ」
 何してるの、という少女の声。振り向けば、彼女とキースが立っていた。
「よう。珍しい組み合わせだな、これまた」
「……あと折紙先輩が居れば完璧な……もごもご」
 バーナビーの口を塞いで、虎徹は苦笑いを浮かべる。本人たちの前で言うのはご法度だ。
「折紙は?」
「仕事だってさ……クレープ何食べよ」
「私は……そうだな、ティラミスにしようか。美味そうだなとても美味そうだ」
「ボクはこのデラックスにしようかな。フルーツいっぱいだって!」
「ああ、僕もそれにしようかな……美味しそう……でも高いな……むむ」
「……分かったよ俺が奢るから! みんな奢ってやるから!」
「え、でも……いいのかい?」
「……じゃ、スカイハイだけは自分で……いてっ」
「大人気ない。皆の分くらいぱーっと払ったらどうです」
「……元はといえば、お前のせいなんだけど……わーったよ、ほら、買うぞっ」
 店先で騒ぐのは迷惑だ、と虎徹。


「うーん、美味しい!!」
 パオリンはクレープの中の果物をもぐもぐと食べながら、そう言って笑った。
「ああ、これは美味い……美味いぞこれは!!」
「よかったなー……おじさんは金がなくてよくないけど……」
 財布を何度も覗き込み、その都度ため息を吐く。バーナビーはというと、一人で真剣に味を解析しているようで。
「ありがと、タイガー! 今度何か食べに行こうね!」
「……ん」
 無邪気に笑う彼女。虎徹は腰をあげて、バーナビーの首根っこを掴むと、
「じゃ、俺らは行くからよ。またな」
 少女は二人に手を振り返して、それから、またクレープを食べ始める。ふと上げた顔の右頬に、クリームがついていて。
「ああ、ちょっと待って。クリームがついている──」
 指にとって、舐める。その動作がまるで恋人同士だと気付いたのは、ずいぶんあと。
「……あ、ありがと」
「……ん。ああ、これ食べるかい?」
 ティラミス味のクレープを差し出すキースに、頷いて、パオリンはそれを口にした。
「おいしいなあ、これ」
「私にもそれ、少し分けてくれないかな?」
 いいよ、と笑いながら、それをキースに渡す。どこを食べようか悩んだ末に、端の方を少し、かじった。
「ん、美味い、そして美味い」
「これ美味しいよね……今度折紙にも食べさせてあげたいなぁ」
「そうだな。次は彼も来れるといいな──」
 そして、自らのクレープを食べきると、キースはパオリンの食べる様子をそっと見て。
「……」
「……」
 無言になってしまう。パオリンはやっとそれを食べ終えて、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「ああ、それは日本流の食後の挨拶だったかな?」
「そうそう。タイガーと折紙がいつもやってるから」
 クレープを包んでいた紙を折って、ゴミ箱に入れ、パオリンは立ち上がって、大きく背伸びをする。
「帰ろっか。みんなにお土産買って、さ」
「……そうだな、それは名案だ」
 彼もにっこり笑った。



2011.07.14
(この二人は絶対書いてみたかった。折紙繋がりの二人、みたいなイメージがあったんだけど……おかしいな、兄妹かなと思ったら恋人状態……^o^)