お前はもっと、笑ったほうがいい。

 だってそうだろう。菊、お前は笑っていたほうが可愛いし、綺麗だ。
 本気で言っているのに、菊は本気にしてくれない。
「またそんな冗談を。アーサーさんのほうが、笑ったほうがいいですよ」
 反論できず、黙り込んでしまう。
「私なんかより、アーサーさんのほうが、ずっと綺麗で──優しい」
 俺が、優しい?
 何を言っているんだと問うと、菊は笑う。
「私は優しくも、綺麗でもありません。そう見えますか? だとしたら、それは全部、見せかけのものにすぎないのですよ」
 そんなこと、ない。
「菊はいつだって、やさしくて、綺麗で──俺より、温かい」
 言葉にうまくできない。だけど、俺は菊が何より大切で。
「……馬鹿ですね、アーサーさんは」
 私なんかをどうして、と苦々しげに笑う。どうしてだろう。
「分からない。けど、俺は、お前が好きで、失いたくなくて」
 また、菊が笑う。その瞳の奥に、何か得体のしれないものを見た気がして、胸がつきんと痛んだ。

2011.1.30
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