私は笑う。いとしい人のため。

「お前に泣き顔なんて似合わねえよ」
 いつのことだったろうか。私は泣いていた。
 何が原因だったかは、もう随分と昔のことで覚えていない。しかし、辛く悲しいこと、何か大切なものを失った、そんな記憶。
「何か、菊」
 誰よりも不器用で、けれどまっすぐな、優しい人の声。その手が私の頬を滑る。
 そして、──。

2011.1.30

戻る