焼き芋ほくほく

 秋。
「焼き芋やろうぜ」
「……はぁ?」
 少し大きな箱を抱えた少年が、どかどかと部屋に入ってくる。いったいなんだと顔を上げれば、それだ。
「芋、買ったらサービスとか言ってさ。絶対一人じゃ食いきれないから」
 要は処分に困ったということだろうとロイが訊くと、まあいいじゃん、と笑う。
「丁度焼くのが上手い人もいるし」
「……それは私のことかね」
「うん」
 大袈裟にため息を吐いてみせると、彼は箱を床に置き(重かったようで息が切れている)、じゃあ準備してくるからと──こちらの意見も聞かずに部屋を出ていってしまう。
「……一体何なんだ、あいつは……」


 三十分経った頃、誰かが部屋の扉をノックした。ハボックだ。
「大将からの伝言で、焼き芋やるからとっとと来い、ですってよ。早く行きましょうよ、俺も食べたいなはぁと」
「はぁとって何だはぁとって。……私はマッチじゃないんだが……いいだろう、絶妙に焼いてやる……」
 少年のペースに乗せられているということに、ロイは未だ気づかない。


 中庭の丁度真ん中あたりに、落ち葉が大量に集められていて。
「あっ、やっと来た!」
「……ほら、芋も準備出来たんだろうな?」
「もちろん」と言って、少年が新聞にくるまれた芋を一つ、手にとって見せる。完璧と言ってもいいほどに上手くくるまれていて、感心する。
「ほら、早く焼こうぜ」
「って言ってもね……鋼の、焼き芋はすぐには焼けないんだが」
「ンなこと知ってるよ。そこをほら、大佐の上手な火加減でなんとか頑張ってくれ」
「……つまり私はそれだけのために?」
 うん、と無邪気に笑う少年に、ロイはまたため息を吐いた。


 彼が芋と格闘している間に、エドワードやハボックはブラックハヤテ号と遊んでいて。
 その様子を遠巻きに眺め、なんで自分だけと肩を落とす。
「私はマッチじゃないんだが……」という呟きは、誰にも届かない。


 そして、芋が焼ける。
 あちあちと言いながら少年が芋の回りの新聞紙を剥いでいく。右手で持てば熱くないだろうに、とロイが呟くと、あ、そうかととぼけたようなことを言って笑った。
「わ、うまそ」
 芋を半分に割ると、金色が美味しそうに煌めいて。
「いただきまーす! ……うめー!!」
 ハボックもその横で美味しそうに食べている。ハヤテ号が食べたそうに見上げてくるので、エドワードは自分の分を少し、分けてやった。
「うまいっスねこれ! 大佐、焼き芋屋でもやったらどうですか」
「それは却下だが……ふむ、我ながらなかなかいい焼き加減だ」
 甘く、丁度良いくらいにしっとりしている。元の芋が良かったんだろう、とロイが言うと、エドワードは、
「大佐の焼き方も上手かったんだよ、きっと。ありがとな」
 にっ、と笑ってみせた。



2011.09.15
(ちょっと微妙に早めの焼き芋ネタですほくほく。これ書いてる途中で食べたくなってきました。
 焼き芋の焼き方は聞いたことあるのに忘れちゃったなあ…小学生の頃食べた焼き芋は美味しかったです)
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