君色症候群。

 街で見かけた金色の髪に、つい過剰に反応してしまう。
「大佐ぁ、行きますよ」
 あぁ、うん、と生返事をして、ロイは車に乗り込んだ。
「どうしたんスか、珍しく…はないけど、ぼぅっとしちゃって」
「いや……何でもない」
「何でもない訳が……ハッ、もしかして恋わずらい…?」
「まさかお前の口からそんな言葉を聞くことができるとは思ってなかったが、しかし乙女チックなのはお前、似合わないぞ…恋わずらいとかどこの乙女だよ、似合わんよ」
「うるせー! ちくしょー俺はどうせ乙女心の分からないむさ苦しい男ですよ!」
「ま、前見ろ! 前!」
 車が危うくごみ箱に突っ込むところをぎりぎり回避する。
「分かった、乙女キャラが似合わないと言う言葉は撤回しよう」
「……それもそれでなんとやらですが…さっき、大佐は何に気を取られていたんですか?」
 少し考え込んで、分からない、と首を横に振った。
「ただ、何かの色にとらわれていた…という感じはするんだがね」
「色ォ?」
 さっき見とれていた女性の容姿を思い出す。白い肌、金色の髪…金色、か。
「あの女性の金髪、どこかで見たことがあるんだよなぁ…」
「金髪? ってーと、中尉とか?」
「いや、もっとオレンジ色に近いんだ…誰だったかな」
「……それ、あれですよ。鋼の大将じゃないッスか?」
 鋼の錬金術師。金髪に金色の眼。小柄な少年。
「ま、まさか……いやしかし、私が、か? あんな子供に?」
「大将ッスかー、まあ悪くはないと思いますよ? 何だかんだ言っても美人だし、可愛いし……あ痛っ」
 無意識に部下を叩いていた。反射に近い。
「……鋼の、か」
 これは少し、彼を呼び出してみたほうが良さそうだ。

「ンだよ、大佐ァ」
 ノックもせずにずかずか入ってくると、彼はソファーに座り込んだ。
「急に呼び出しやがって…たまたまこっちにいたからいいけどさぁ」
「や、すまなかったな。私も少し焦っていてね」
「は? なんで?」
 顔をしかめる彼の金髪に目をとられてしまう。やっぱり、ハボックが言うようにこれは恋わずらいなのだろうか。
「いや…君と同じような髪の色の女性を街で見かけてね。急に会いたくなったんだ」
「……で? それだけなら、オレは帰るぞ?」
 面倒だ、という顔をしているが、頬が真っ赤になっている。…脈ありだろうか。
「単刀直入に言おうか。鋼の、私は──」
「……なんでオレなんだよ?」
「それは……えっと、」
「オレはあんたが思ってるようなやつじゃないと思うし、それに……」
「それに、何だ?」
「……それに、オレは嘘吐きだし、馬鹿で阿呆で、あんたに迷惑ばっかかけてて」
 なんだそんなことか。微笑んで、腰を上げた。
「鋼の、食事に行こう」
「は?」
「私は君が好きだし、君も私が好き。それでいいじゃないか」
「や、まだ好きとか言ってないんだけど……確かに、あんたのことは好き、だけどさ」
「何を食べたい? 今日は奢るよ」
 少し考えたあと、彼は家庭料理が食べたい、と言って立ち上がった。


 君の色に囚われる。まるで病気のような。
 それはそう、恋わずらい。
 君色に囚われた私は、今日も君に会いたくて会いたくて。
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