arrosage
暑い。
とにかく暑い。
「この暑さはどうにかならないのか、ハボック」
「俺に言わないで下さいよ……錬金術でなんとかならないんスか」
それは私の得意分野ではないと上官が威張るが、つまらないので無視する。とにかく、今解決すべきは、この暑さをどうするかだ。
もうすでに上着は脱いだ。これ以上脱ぐ訳にはいかず、近くにあった書類でぱたぱたと扇ぐが、ぬるい風しか送られてこない。
「……ああそうだ、今日は鋼のが来ると言っていたな」
「大将が?」
こんなところで嘘を吐いても仕方ないだろうとロイが肩を竦めた。と、同時に、ドアがノックされた。入れと返すと、勢いよく扉が開かれる。
「よう、大佐、と少尉。やけにダレてんなぁ」
「よっ。だってこの暑さだぜ? 仕事する気すら起きねえよ」
せめてもう少し涼しければ、とハボックが机に突っ伏す。苦笑しながらエドワードは訊ねた。
「水撒いたりとかしないのかよ。暑いなら水撒くだろ、普通」
二人はぽかんとした表情で少年を見た。気付かなかった。
「なるほど、水……水を撒きに行くぞ、ハボック少尉!」
「yes,sir!」
ばたばたと外へ出て行く大人の後ろ姿を見送りながら、少年はため息をついた。
「単純すぎ、あんたら……」
外では、一生懸命に水を撒くロイとハボックの姿があった。しかし、広大な敷地全体に二人だけで水を撒くのは不可能に近い。どうしたものかなと考えていると、エドワードが追ってきた。
「とりあえず水掛け合って遊んでればいいじゃん。涼しくなるぜ」
田舎の子供ならではの知恵。早速ハボックがロイにホースを向けた。
「大佐、覚悟ッ」
慌ててロイがエドワードの影に入る。エドワードの顔面に勢いよく水が直撃した。
「てめぇ、何すんだよっ」
「ほらほら、大将も一緒にやろうぜ!」
いい度胸だとエドワードが鼻息を荒くする。そして、近くにあったやや大きめのホースを掴むと、ロイに向ける。容赦ない水流が青年の服を濡らした。
「冷た……っ! は、鋼の待ちたまえっ」
「待ったなし! やったもん勝ちだ!!」
仕事をせずにこんな所で遊んでいたら、ホークアイに怒られてしまうだろう。しかし、もうすでに二人ははしゃぎ始めていて、止められそうにない。仕方ないかと腹を括り、ホースを手にした。
そうしてはしゃぐ三人が、結局日が暮れるまで遊び呆けてしまい、ホークアイに叱られたのはまた別の話である。
2010.5.22