飴玉に願いを
小さなガラス瓶に入った飴玉を買った。
これを彼に渡したら、どんな顔をするだろう。そう思うと、自然と顔が綻ぶ。
どうか、喜んでくれますように。
可愛らしい包みの中の小瓶と飴玉に、そっと願いを込めた。
左右で違う足音。扉がノックされ、入りなさいと声をかければ、ひょっこりと少年が顔を出した。
「よ、税金泥棒。仕事してっか?」
この通りだよ、と大袈裟に肩を竦めてみせれば、お疲れ様と彼は笑った。
いつものように、彼から書類を受け取ると、予定をたずねる。今回は何日間滞在するのだろう。
「ん、とりあえず情報が入るまでかな。しばらく居ると思う」
そうか、とだけ答えてから、私は机の引き出しに入れておいた小瓶を取り出す。
「これ、君に」
包みをやや乱雑に開くと、少年はわあ、と顔を輝かせた。
窓からの光に反射して、中の飴玉がきらきら輝いている。それと共に、彼の金色の髪が揺れた。
「ありがとう」
綺麗だな、と少年が笑う。うっとりと細められた目は、蜂蜜の色をしていて、それはいやに色めいていた。
君も綺麗だよ、と私が呟くが、彼の耳には届かなかったようだ。何か言ったかと聞き返され、何でもないよと彼の頭を撫でてやる。
「ほらよ、あーん」
瓶を開け、その中から紫色を取り出すと、彼はそれを私に食べさせてくれた。
甘酸っぱさが、口の中に広がる。うん、期待よりもずっと美味しい。
私も瓶の中から桃色を取り出し、それを口に含む。そして、彼をそっと抱き寄せると、口づけた。
少しだけ抵抗があったのか、少年は体を強張らせたが、すぐに口を開いた。飴玉を舌で転がしあいながら、少しだけ、と服の止め金を外す。
「……やっ、」
ここではやだ、と言うように彼は口を離す。
「この変態っ……しばらく滞在するんだから、その間にやればいいじゃんっ」
そうは言ってもね、可愛い君を見てるとどうも節制が効かなくなるんだと囁くと、彼は顔を真っ赤にした。
「ば、ばーか! ばーか!」
「馬鹿とはなんだ……馬鹿とは」
うるさい、とそっぽを向く彼の頬に触れる。熱い。ああもう、なんて可愛いんだろう。
甘酸っぱい飴玉を口の中で転がしながら、少年の髪を撫でてやる。
こんな時間が、いつまでも続いていきますようにと、また願いを込めた。
2010.5.7 修正・2010.12.17